MUVEIL MAGAZINEvol.32020 SPRING SUMMERPierre - Joseph Redouté 今月のMAGAZINEは、2020 SPRING SUMMER COLLECTIONにフィーチャーし、2号連続で特集します。 特集第1弾となるMUVEIL MAGAZINE vol.3では、デザイナー・中山路子へのコレクションに関するインタビューとともに、テーマであるPierre - Joseph Redoutéについて当時のファッションアイコンを交えながらお届けします。 今回のコレクションを制作するにあたって、テーマを決めた経緯を教えてください。 GALLERY MUVEILでもトークショーをしていただいた福岡伸一先生がよく語られる”sense of wonder”について考えることが多かったです。”sense of wonder(センス オブ ワンダー)”とは、神秘さや不思議さに目を見張る感性と福岡先生は説明されています。子供時代、新鮮なものに遭遇した時にワァーッと感動して夢中になるあのエネルギーを大人になっても取り戻せないかと探索する中でルドゥーテに出会いました。 ルドゥーテにはその探索の中で出会ったのですか? 元々知ってはいたのですが、パリの蚤の市やよく訪れるアンティークショップで、手に取ってみた版画がルドゥーテだったり、たまたま開いた図鑑も彼の制作だったりと少しずつ本人と彼の作品がリンクしていきました。彼の描く花は、精密でありながらみずみずしい。植物図鑑なども手がけられていますが、ブーケの花の合わせやアート的な要素が添えられており学術を超えて感情が溢れているのがひしひしと伝わるのです。”sense of wonder”の極みがルドゥーテなのかもしれないと気づかされました。亡くなるその日まで、ただただひた向きに花々へ向き合った彼が残した作品には、感性の琴線に触れる力がみなぎっています。その美しさにみなさまと一緒に感動できれば嬉しいです。 今期コレクションのお洋服でオススメの着こなしはありますか? 花刺繍ワンピースはパンツを合わせてあえて重めなスタイリングで楽しんで欲しいです。暖かくなったらアウターとして着るのもオススメです。 ビオラ刺繍チュールコートはインナーキャミだけでなく、お手持ちのロゴTなどを合わせてレイヤードをしてご自分だけのスタイルを見つけてみてください。 —ルドゥーテに関してMUVEIL MAGAZINEチームでも学ばせていただきました。少し長くなりますが、よかったら読んでみてくださいね。— 花をこよなく愛した宮廷画家 ボタニカル・アート (植物画) の頂点をきわめ、『 花のラファエロ 』『 バラのレンブラント 』とも称される天才画家ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(Pierre - Joseph Redouté)。彼は、1759年にベルギーで生まれ、1840年にパリで80歳で亡くなっています。 元々画家の家に生まれた彼は早くから画家としての修行を積み、 特に花の絵に惹かれるようになります。1783年にパリに移り住み、 外国からの植物が多く植えられた王立植物園に足繁く通いました。植物学者レリティエと出会い、植物図譜制作の仕事に携わったことから、ボタニカル・アーティストとしての道が開かれます。 時代を象徴するファッションアイコン ルドゥーテが活躍した当時の18世紀後半~19世紀前半のフランスは、フランス革命も起き社会情勢がめまぐるしく変化をした時代です。その時代の象徴的な女性でありファッションアイコンとして知られた、フランス王妃マリー・アントワネットと皇后ジョセフィーヌがいます。 マリー・アントワネットは、MUVEIL 2017-18 AUTUMN WINTER COLLECTIONのテーマでもありました。オーストリアからフランス・ブルボン王家のルイ16世に嫁いだ彼女は当時のヨーロッパのファッションに多大なる影響を与えました。 MUVEIL 2017-18 AUTUMN WINTER COLLECTION 煌びやかな装飾や刺繍、音のするシルクのタフタドレス、パニエによって膨らんだ腰、パウダーのかかった高く結い上がった髪型。既にヨーロッパのトレンドセッターであったヴェルサイユで、流行していたロココ調のファッションを着こなしながら、貴族女性の必須品だったコルセットを脱ぎ捨てシュミーズドレスを取り入れた新たな風を吹き込んだのも実はマリー・アントワネットでした。 その後、マリー・アントワネットはフランス革命によって処刑されてしまいますが、そのファッションの流れを絶やさなかったのがナポレオンの最初の妃だったジョゼフィーヌです。 貴族的な装飾を一切捨て、ハイウェストの切り替えをもたせゆったりとしたAラインに仕上げることでシュミーズドレスをエレガントに昇華させました。ポンパドールで結い上げた髪をタイトに下ろして、ボネットをファッションアイテムとして取り入れたのも彼女です。 境遇が違えどファッションを愛した彼女たちは、花にも情熱を傾けました。その二人の寵愛を受けたのが、ルドゥーテです。「花を愛する君に、この花束を贈る」とルイ16世に小さな別邸を送られたマリー・アントワネットに仕えた彼は、博物蒐集室付画家としての称号を授かります。 さらにナポレオン皇妃ジョゼフィーヌからも、熱烈で惜しみない支援を受けました。パリの近郊にあるマルメゾンの庭園でバラ栽培に情熱を燃やし『 近代バラの母 』とも呼ばれている彼女は、世界中から集めて庭園に植えたバラをルドゥーテに描かせたことより、ルドゥーテの代表作『 バラ図鑑 』が完成しました。 花々に人生を捧げて ジョゼフィーヌが亡くなった後も精力的に図鑑を制作し、「 パリ中のすべての女性が、ルドゥーテの生徒か信奉者だ 」と言われるほど、名実ともに、『 花の宮廷画家 』ルドゥーテとしての地位を確立していきました。 80年の生涯を通じて、どこまでも花だけを描き続けたルドゥーテ。自然の花を慈しみ深く理解しその姿を描こうとした彼の作品は、花に対する深い愛情を反映しているからこそ、時代を超えて女性の心を魅了し続けているのかもしれません。 —最後までお読みいただきありがとうございました。次回はSS COLLECTIONの刺繍に焦点を当てる予定です。お楽しみに— 2020.4