MUVEIL MAGAZINEvol.33WOVEN NAMES MUVEIL MAGAZINE vol.33の主役は、洋服の裏に縫いつけられたブランドタグ。外から見えなくともブランドの歴史から背景まで情報がぎっちりと詰まったブランドのシグネチャーです。 MUVEILの織ネームに込めたこだわりから制作秘話を、紐解いていきます。 ヴィンテージの年代を判別するためにも重要な役割を担う織ネームは、引き継がれる衣服を目指すMUVEILにとって大切な存在です。 ブランド名が表記されたメインネームだけでなく、MADE IN DREAM LANDと表記されたサブネームやコレクションに合わせてデザインしたコレクションネームなど、お洋服によって縫い付けられているものがちがうことに気づかれる方もいらっしゃるのではないかと思います。 今回のインタビューでは、中山率いるMUVEILデザインチームとともにブランドのスタート時から制作いただいている株式会社ケイスリーの田村氏にお話を伺いました。 はじめての織ネームはどういったものでしたか? MUVEILを立ち上げた際は手の温もりを感じるようにレーヨン入りのネームの四つ角を手折りし、手縫いしていました。縫い付け用に使用されてる糸が黄色であることに気づかれる方もいらっしゃるかもしれません。これはDMCの刺繍糸#307カラー。MUVEILの誕生日のカラー番号を採用しています。現在はサブネームの糸に使用されています。 織ネームにこだわる理由を教えてください。 内側のパイピングがちがったり、ボタン1つ1つを違うデザインにしたりとMUVEILのお洋服に腕を通す過程からささやかなサプライズを仕掛けることを大切にしています。織ネームもそのひとつです。外から見えなくとも、ハンガーから外した瞬間ささやかな喜びを与えたい一心でデザインしています。 ブランドがはじまって14年、アーカイブファイルのページ数は10ページ以上。その中でも思い入れのある織ネームを伺います。 サブネームを使用していなかったとき、異なる5枚のネームを制作しステッチで縫い付けた織ネームは、今でもお気に入りのひとつです。生地の組成や生産工場、販売するブティックなど多くのネームがついたヴィンテージの服をイメージしてましたので、一点一点ちがったものを制作するのに苦労しました。ミリタリータグであれば、実際にヴィンテージ加工をしたり妥協せずに制作しているので、どれも思い入れが強いです。 現在はシーズンごとにネームも制作していますね。 コレクションによって異なる物語を描いてますので、同じ出版社や作家さんでもタイトルによってブックデザインが変わるようにシーズンに合わせたネームをデザインするようになりました。テーマを決めたときからお洋服のデザインと並行して、構想を練っていっています。 2021 AUTUMN WINTER COLLECTIONはどんなコレクションネームでしょうか? 今回のコレクションは、幼少期の記憶を呼び戻す時空の旅がテーマでもあります。子どものとき、大人になった自分に向けてタイムカプセルを土に埋めたりしましたよね。懐かしい香りを散りばめたような洋服を手にされたとき、子ども時代の自分から手紙が届いたような感覚を味わえたらとの想いから切手をデザインしました。世界各国のヴィンテージの切手を集めてデザインを学び、コレクションに登場するリスを手で描いています。立体感を出すためモチーフと背景で織を変えただけでなく、極限までに色を足した工場さん泣かせな要望をたくさんお伝えしましたが表情豊かに仕上げてくださいました。 MUVEILの織ネームを作りつづけてくれている株式会社ケイスリーの田村氏もインタビューにご協力いただきました。 織ネームを制作する過程を教えていただけますか? まずMUVEILから送られたデザインを精査して織り方を決定するのが最初のステップです。そこからデザインの調整を行い紋型の作成し試し織をしてみた後、再度紋型を作成したり調整しながら柄を忠実に再現できるまでこの工程を何度も繰り返します。 場合によっては、糸や織密度に合わせて、織組織の変更したりする場合もあったりと時間のかかる作業です。納得のいくネームが完成したら、製織し裏糸切りや加工を施して検品を重ねた後完成します。 この動画はどのような工程でしょうか? 織ネームを織り上げ、防縮成型加工を行い、機をキレイにして検品したのちテープ状になったものを両折り加工して仕上げる工程の動画となります。この工程を経て、ようやく1枚の織ネームが完成します。 MUVEILデザインチームにシーズンネームでは高密度織を採用することもあると伺いましたが、どのような織り方でしょうか。 高密度織とは通常の織ネームより密度が高く、極細糸を使用しているためより緻密な表現をすることが可能になります。密度が高くなればなるほど細い糸を使用し緻密なデザインを再現することが可能ですが、密度に比例して高価なネームになってしまうため、デザインを見極め最適な織り方を選択しています。 長年MUVEILの織ネームやタグを作成いただいておりますが、難しい点など教えてください。 メインネームはもちろんのこと、シーズン毎に製品につくシーズンネームは、毎回拘ったデザインが多く、そのデザインをどのような織り方で表現するか、『織り方の選択』が大変重要になっています。 織り方を決めた後も「紋型」の作成を行い、織機で試し織を行いますが、1回で上手く行くことは希で、再度紋型の作り直しや修正を何度か行い納得いくまで繰り返します。 そうした工程を得てようやく織り出すことが出来ます。完成した時の喜びは携わる者全ての喜びになっています。 毎回斬新なアイデアや発想の織ネームを作らせて頂き刺激を受けています。 デザインの再現性を追求するときもあれば織ネームの柔らかさを追求したり、織ネームの織り方を追求するときなどこだわりをもって依頼するので大変な事も多いですが、その分今まで挑戦したことのない技法や組織で織ることも多く、その新しい挑戦が他のブランドにない織ネームを生み出しているのだと思います。 数年前のメインネームだった5種類のネームをそれぞれ違う織り方で織り、最終合体して組み合わせたネームは世界中探してもどこにもない素敵なネームでした。現在のメインネームは、スーパーサテン織りと命名をしていますが大変特殊で一部のブランドのみしか使用されていない気品のあるサテン組織です。 スーパーサテン織がどういった特徴があるのでしょうか。 一般的なサテン組織の織ネームは平織り組織のネーム等に比べ経糸の密度が若干高い織物になりますが、更に高い密度の経糸を使用しています。ただギラギラと光沢がある糸でなく、あえて光沢感を抑えた糸を使用し、より白さと落ち着きのある上品な光沢感が特徴です。 また、極細の糸を使用して経密度を細かく設定しているので、通常より滑らかなサテン感を表現すること事が可能になっています。 一般的な織ネームは白いベースで黒ロゴにした場合、使用した黒い糸が透けてしまいグレー調のベース色になってしまいますが、MUVEILのメインネームは緯糸にも特殊な糸を使用し白と黒のコントラストを最大限表現できる様に作りました。 インタビューにご協力いただきありがとうございました。 私たちにとって、MUVEILのお洋服に着替える時間は身に纏ってくださる人と対話ができる時間。手にしたときにだけ姿を現す織ネームに込めたひと手間ふた手間を見つける楽しみを見出していただけたら嬉しいです。 最後までお読みいただきありがとうございました。