MUVEIL MAGAZINE vol.53 2022 PREFALL COLLECTION STORY by Michiko Nakayama 芸術に恋したある女性に思いを馳せた2022 PREFALL COLLECTION。 エレガントなスタイルをベースににしながらもアートピースの色味や質感の豊かさに遊び心を重ねたスタイルを提案します。 MUVEIL MAGAZINE vol.53では、デザイナー・中山のインタビューとともにコレクションの世界観を紐解いていきます。 「狂った人生?間違いないわ。愛と芸術に生きたの。」 こんなかっこいい名言を残した人物は、ペギー・グッゲンハイム。中山のインスピレーションを駆り立てた「現代アートの母」とも呼ばれるアートコレクターです。 富豪として知られるグッゲンハイム一族に生まれながら奔放な性格だった彼女は、その財力をもって前衛芸術を擁護し、現代美術の発展に貢献しました。 「安泰から離れ、好きだったアートにどんどん情熱を傾けていく。知識がないと周りから揶揄されながらも、彼女の愛は多くのアーティストや作品を援助しました。好きが生みだすバイタリティーで脅かされていた芸術を救った彼女を心より尊敬しますし、パッションを信じて突き進む勇気を与えてくれます。」 直感に従う勇気をもって人生の舵を取りつづけた彼女の人生をカードゲームに見立て、制作された2022 PREFALLの織ネーム。 愛と富のシンボルを掲げたクイーンが君臨したデザインです。 ART アメリカの富裕層の堅苦しい社会に興味がなかったペギーは、タイタニック号沈没にて父が亡くなり莫大な遺産を手に入れたことから単身ヨーロッパへと渡りました。書店で働くことで芸術に触れた彼女は大学への入学を試みますが家族に反対され独学で学ぶことに決めます。 あらゆる芸術革命が花開いたパリに住み、カフェの椅子でダダイズムやシュルレアリスムなど時代の思想を吸収し、芸術家との親交を深めていきました。彼女が絶大なる信頼を寄せていたマルセル・デュシャンは彼の代表作品のひとつである最初の『トランクの箱』をペギーに送っています。 シュルレアリスムを一早く画廊で扱ったり、欧米初の女性アーティストだけを集めた展覧会を開催したりと、時代を先行するコレクションを打ち出していくペギー。 そんな中ナチス・ドイツの侵攻によって危険に晒されていた作品だけでなく芸術家たちの亡命も支援しはじめます。後にペギーと結婚するマックス・エルンストやサルバドール・ダリなど名だたるアーティストが彼女のおかげでニューヨークへと渡りました。 ニューヨークへ移り住んでからは、現代美術の発掘に打ち込みます。 叔父が所有していたグッゲンハイム美術館で大工を支援するため自宅の壁画を依頼した人物こそ、彼女自身が人生最大の発見と称えるジャクソン・ポロックです。 美術史の知識や創造性に長けていたわけではなくとも、芸術に対する愛から成功をもたらしたペギー・グッゲンハイム。 わずか4万ドルでつくったとされる彼女のアート・コレクションは、20世紀美術の核とされるほど重要なコレクションです。 2022 PREFALL COLLECTIONでは彼女が所有したアートピースを基にプリントへ落とし込みました。 「カンディンスキーやポロックなど抽象絵画やオルフィスムの作品を勉強して、プリント屋さんとともにヴィンテージプリントの版に新しく色をのせたりつくったりとコラージュしながら作りました。アレクサンダー・カルダーのモビールのように動きを再現しようとプリーツの織り方にこだわったり、ロスコの作品がもつジュワッとした絵具の広がりをファーをモチーフに使用したり、、、図形操作を楽しみました。」 中山が語るように、大胆さを楽しんでいただけるプリントパターンが多いコレクションに仕上がっています。 INTERIOR ペギー・グッゲンハイムの魅力は写真からも伝わります。 晩年ヴェネチアに移り住んだ彼女の邸宅の写真。彼女が亡くなった後は美術館になりました。モダン・アートに世界各地の民藝品と洗練されたアールデコの家具。 彼女のアヴァンギャルドな精神を具現化したような空間にうっとりします。 マン・レイが撮影した写真でペギーが着用しているのは、ポール・ポワレのガウン。20世紀初頭に女性の身体をコルセットより解放した先駆者的なデザイナーです。彼は、着物やカフタンなど非西洋なデザインを取り込み、パリで一世を風靡しました。 異国情緒溢れる当時のエッセンスを衣服に散りばめています。 配色を効かせたヴィンテージ調のペイズリー、アールデコ様式を意識したオリジナルのゼブラ柄にエキゾチックな表情が浮かぶテープやレースで装飾性を高めました。 芸術家を助けるという信念に対し行動し、リスクを負う覚悟を持って生を全うしたペギー・グッゲンハイム。 彼女に倣って「望んだことは全て成し遂げたわ。」とコメントできる人生を送りたいものです。 MUVEIL MAGAZINE vol.53はここまで。 最後までお読みいただきありがとうございました。 2022.5