2023 AUTUMN WINTER COLLECTION STORY



MUVEIL MAGAZINE
vol.82
2023 AUTUMN WINTER COLLECTION STORY

秋の夜長に

秋といえば芸術の秋。夜の時間が長くなり、ゆっくり映画を観ながら物思いにふけるのにぴったりな季節です。
MUVEIL MAGAZINE vol.82では、2023 AUTUMN WINTER COLLECTIONの着想源となった映画『マリリンとアインシュタイン(原題:Insignificance)』をご紹介。





監督はイギリス出身のニコラス・ローグ氏。フランソワ・トリュフォー監督の『華氏451』の映像監督も務めており、本作品でも彼独自の映像美を堪能できます。

舞台は1954年のアメリカのとある町。
地下鉄の通気口でスカートが捲りあがるシーンを撮影している大物女優は、ロケが終わると周りを振り切ってホテルのある一室を訪れます。そこに宿泊していたのは、天才物理学者。
面識がない女優からの猛烈アプローチでディスカッションを繰り広げていく中で、2人の人物がドアを叩きます。
世界に影響を与える物理学者に共産主義者が不利になる発言をしてほしいと訴える上院議員と大物女優の夫で彼女との関係を修復したい有名野球選手。
破天荒な設定の中、性や社会、さらには宇宙まで展開されていく会話から、各々の関係性と人物像が浮き彫りになってきます。


作中では特定の名前が出てこなくとも、見るだけで誰なのかわかるほどの人物が一堂に会して描かれるのは、人間誰もがもつ人との交わりと孤独との葛藤です。
一時代を築いた女優、マリリン・モンロー、天才物理学者のアインシュタイン、マリリンの夫であったメジャー・リーガーのジョー・ディマジオと、アメリカの「赤狩り運動」を推進したジョセフ・マッカーシー上院議員。

語り尽くされるほど注目された人物でも、閉ざしたい過去から、外に向けた顔と内に潜む顔、自身の願望と周りからの期待と幾多もの顔が内包されています。
映画の冒頭ではフィクションであるとの記載がありますが、現にマリリンは求められる「セックス・シンボル」としての姿と知的な活動をしたい本音で悩んでいたことを打ち明けていますし、アインシュタインはアメリカの原子爆弾開発の発端となったとされる手紙に署名したことを「重大な間違い」と語っていました。

作中のシュールな設定と軽快な会話、シリアスな幻想シーンが織り成す不思議な世界に気づくとのめり込んでしまい、各々の痛みがまるでドキュメンタリーのようにリアルに伝わってくる不思議な魅力をもつ作品です。



けっして明るいだけの作品ではないので見る時間を選びますが、ひと悶着もふた悶着も経てたどり着く強烈なラストシーンを見終わったあとに残る余韻は秋の夜長と好相性。

前半で描かれるおもちゃを使ってマリリンがアインシュタインに相対性理論を説明するシーンは必見です。機知に富みながら無垢で妖艶というマリリンの魅力が詰まっていますので是非チェックしてみてくださいね。



MUVEIL MAGAZINE vol.82はここまで。

最後までお読みいただきありがとうございました。


2023.11