MUVEIL MAGAZINE
vol.83
2023 CRUISE COLLECTION STORY
5月のそよ風を纏って
MUVEIL CRUISE COLLECTIONは、昭和初期に活躍し24歳で急逝した
詩人・立原道造にオマージュを捧げたコレクションです。
彼が描いた美しい音色を奏でる透きとおった風景をワードローブに投影します。
10代から文学的才能を開花させ、繊細な心の声を綴る彼の詩は今も多くの方々に愛されています。『風立ちぬ』で知られる堀辰雄に師事したことでも知られる立原道造ですが、彼は将来を嘱望される建築家でもありました。
MUVEIL MAGAZINE vol.82では、立原道造が遺した言葉ににフォーカスしながら2024 CRUISE COLLECTIONをご紹介。彼の透明感溢れる表現に触れてみてください。
東京帝国大学の建築学科に在籍していた立原は、丹下健三、大江宏、浜口隆一の一つ上の先輩として彼らの憧れの的でもありました。卒業後石本建築事務所に入りますが、その翌々年にはこの世を去ります。建築物を残せなかった立原ですが、生前構想していた週末住宅「HAUS-HYAZINTH(ヒアシンスハウス)」は、彼の死後半世紀以上を経て建てられました。
「…僕は、窓がひとつ欲しい。
あまり大きくてはいけない。そして外に鎧戸、内にレースのカーテンを持つてゐなくてはいけない。ガラスは美しい磨きで外の景色が少しでも歪んではいけない。
窓台の上には花などを飾る、花は何でもいい、リンドウやナデシコやアザミなど
紫の花ならばなほいい。」
(立原道造草稿「鉛筆・ネクタイ・窓」から)
出窓レースコート /
パールニットプルオーバー
パールニットスカート /
窓辺レースバッグ
北欧建築に興味を抱いていた立原は窓に対して強いこだわりをもっていました。
立原が理想とした窓から構想を得て、レース編みニットのセットアップや彼が愛した花々とともに出窓をオリジナルレースに落とし込みました。
窓辺ネコプルオーバー
窓台にやってきたネコをイメージしたインターシャプルのニット。
きちんと紫の花を窓台に飾っています。
「…五月のそよ風をゼリーにして持つて来て下さい 非常に美しくておいしく 口の中に入れると すつととけてしまふ青い星のやうなものも食べたいのです。」
(若林つや『野花を捧ぐ』から)
押し花ボタンカーディガン
結核で入院した診療所に、訪ねてきてきた友人に「何か欲しいものがないか。」と尋ねられた時の返答です。5月のそよ風のゼリー。想像しただけで、幸せな気分に浸れますよね。
MUVEILでは本物の花を閉じ込めたボタンやプルっとしたボリュームのチュールフリルで
表現しました。
フリルチュールプルオーバー /
フリルヘムニットワンピース
「…やさしい朝でいつぱいであった――
お聞き 春の空の山なみに
お前の知らない雲が焼けてゐる 明るく そして消えながら
とほい村よ
僕はちつともかはらずに待つてゐる
あの頃も 今日も あの向うに
かうして僕とおなじやうに人はきつと待つてゐると…」
(立原道造『優しき歌I』より「燕の歌」)
立原の作品には鳥のモチーフが度々登場します。ソネットの形式にのせた詩は、小鳥たちが奏でる歌声のような軽やかさが心地よいです。
ツバメプリントブラウス /
ツバメプリントパンツ
/
ツバメプリントワンピース
毎コレクション制作するオリジナルプリントにツバメのモチーフを取り入れました。
連なる雲のようなシャーリングでリズムを添えています。
「…私はささやく おまへにまた一度
――はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!
やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実(このみ)も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまふ――そして別れる…」
(立原道造『優しき歌I』より「薄明り」)
リボンスリーブプルオーバー /
裾リボンカットソー
/
リボン裏毛パンツ
作家の中村真一郎は立原について「ぼくの記憶の中には、人間であるよりは、遥かに妖精に近い雰囲気を、あたりに撒き散らしながら、空中を飛ぶやうに身軽な歩き方で歩き廻ってゐた、建築家兼詩人の半ば少年のやうな姿が、ありありと生きてゐる。」と語りました。
詩でも甘酸っぱい気持ちを想起させる立原は、元祖乙女男子とも言われています。
フラワープリントワンピース /
フラワープリントスカート
彼の詩を読んでいると脳内で描かれる儚い景色をノイズがかったフラワープリントや生地端を解したツイードで表現しました。
ツイードフリルジャケット
MUVEIL MAGAZINE vol.83はここまで。
立原は、ロマンチストらしい花鳥風月や実らぬ恋から、手に入らない憧れや悲哀を題材にした詩人です。
なかなか詩を読む機会はないものですが、ソネットの形式にのせた彼の言葉は、どこか重い題材でも綿菓子のようにふんわりと優しさに包まれてスッと消えていきます。
音楽を聴くような気持ちで彼の詩集を手にしてみてくださいね。
MUVEIL MAGAZINE vol.83はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
2023.11